絹ずれの音

 某道場の記念大会を見学した。日本剣道形を紋付袴、模擬刀で高段者が演武した。打太刀が技を仕掛け、仕太刀がそれに応じ技を出す。高度の呼吸法と技と体捌きが求められる。その道40年の両者が行ったので、重厚みと緊張感が漂った。九歩の間合いから技を出す。「絹ずれの音」が静寂を破り、技へと流れた。見応えのある形であった。

 傍で、連続写真を撮る人が居た。カチ、カチ、カチ…。ゴルフの石井遼がシャツターの音が、という事を新聞で読んだ。形を台無しにする。
 ある時代小説で、江戸時代の武士の生活は「絹ずれの音」と書いてあった。静寂の中に流れる息遣いを壊すシャッターの音であった。