債務整理と本

 佐野眞一著「甘粕正彦 乱心の曠原」を読み終わった。
 大正12年関東大震災の日、ある事件があった。日本陸軍を揺るものである。
 甘粕憲兵分隊長が、無政府主義者大杉榮、伊藤野枝そして橘宗一少年を殺害したとする事件である。裁判の結果も、同隊長が行なったことになり事件は確定した。刑に服した。

 甘粕氏は、服役後フランスに行き、満州に渡り、昭和7年の満州国建国に関与した。阿部前総理の祖父岸信介等、満州建国の有力者と交遊があった。
 その後満州映画協会の理事長となり、満州映画を盛んにする。敗戦後の日本の映画界で活躍する人々にも影響を与えた。
昭和20年8月の終戦のときに自殺する。辞世の句は、
 「大ばくち 身ぐるみぬいで すってんてん」 享年54歳

 事件の指揮、実行を自分が行なったとし、真相は終始明らかにしないで死んだ。
上層部の者が関係するとなれば、陸軍の組織が破壊される様な事件であった。
だからこそ、明らかに出来なかった。「秘密」である。

 著者は、国会図書館等の資料に当たり、生存者に直接会い、その真相に迫った。大正、昭和、そして平成と大きな時代の流れを甘粕氏のこの秘密の真相を通して、一人の人間と時代を描こうとした。そこには李香蘭(山口淑子)、森繁久弥、浅丘ルリ子もいる。

 秘密というものは、その人をさいなむ。債務整理中、和解による分割返済は経済的にも、精神的にも苦しい。家族、支援者に秘密ということは、更に本人に負担を掛け、心を歪めている。
 本を読んで、秘密ー真実と異なること又は隠すことーというものが、一人の人生にどんなに重いものかをまた知った。
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